韓国のTOEIC平均点はなぜ日本より高い

就職と1997年の通貨危機から118点差の理由を考える

2025年のTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)の国・地域別平均スコアは、韓国が682点、日本が564点でした。差は118点です。同じ東アジアにあり、英語を母語としない2か国で、なぜこれほどの差があるのでしょうか。

実は、韓国は昔から日本より高得点だったわけではありません。韓国TOEIC委員会が1990年から2011年までの日韓の定期試験を分析したデータでは、1990年の平均は韓国551.2点、日本552.0点で、ほぼ同じでした。差が広がったのは2000年代以降です。

この変化をたどると、英語教育の違いだけでは説明できません。韓国では就職、大学の卒業認証、国家試験や資格試験などでTOEICを使う機会が増え、高い目標点を持って受験する人が多い環境が形成されました。1997年のアジア通貨危機後に、雇用と競争力への意識が強まったことも、その背景にあります。

ただし、国別平均は国民全体の英語力を示す数字ではありません。受験者の年齢、目的、英語力が国によって異なるからです。この記事では、韓国人の英語力が一律に高いと結論づけるのではなく、TOEICで高得点を目指す人が増えた社会的・制度的な理由を整理します。

韓国と日本のTOEIC平均点には118点の差がある

2025年は韓国682点で日本564点

ETSがまとめ、IIBCが公表した2025年の世界データでは、韓国は682点で17位、日本は564点で30位でした。リスニングとリーディングを合わせた990点満点の試験で、118点の差は小さくありません。

前年の2024年も韓国678点、日本564点で、差は114点でした。2025年だけ韓国が偶然高かったわけではなく、100点を超える差が続いています。

図1  2025年の日韓TOEIC L&R平均スコア

韓国682点、日本564点。差は118点。出典:IIBCが公表したETS世界データ

平均点は国民全体の英語力を表さない

国別平均を読むときは、受験者集団の違いに注意が必要です。TOEICを受ける人の割合や受験目的、年齢構成は国ごとに異なります。例えば、就職や卒業のために一定のスコアが必要な人が多い国では、目標点を決めて学習した受験者が集まりやすくなります。

したがって、韓国682点と日本564点は「韓国人全体と日本人全体の英語力の差」ではありません。ここで考えるべきなのは、なぜ韓国のTOEIC受験者に高得点者が多いのか、という点です。

韓国は昔から日本よりTOEICが高かったわけではない

1990年は韓国551点で日本552点

韓国TOEIC委員会の分析を報じた韓国メディア「新東亜」によると、1990年の定期試験平均は韓国551.2点、日本552.0点でした。日本が0.8点上で、実質的にはほぼ同じ水準です。

2000年までは両国が拮抗していましたが、2001年以降は韓国が継続して日本を上回ったと報告されています。2001年の差は8.1点、2011年には56.6点まで広がりました。

年韓国日本日韓差
1990年551.2点552.0点日本が0.8点上
2001年566.2点558.1点韓国が8.1点上
2011年632.7点576.1点韓国が56.6点上
2025年682点564点韓国が118点上

2001年から2011年に韓国の平均点が大きく上昇

2001年から2011年までに、韓国の平均は566.2点から632.7点へ66.5点上昇しました。同じ期間の日本は558.1点から576.1点へ18.0点の上昇です。日韓の差が本格的に開いたのは、この10年間でした。

ここで「韓国の英語力が66.5点伸びた」とは言い切れません。平均点には、受験者層や受験目的の変化も影響するからです。正確には、韓国のTOEIC受験者の平均スコアが大きく上昇した、と捉えるべきでしょう。

図2  日韓のTOEIC平均スコア差の拡大

1990~2011年と2025年は資料と集計対象が異なるため、完全に連続した統計ではなく参考値として掲載。

韓国の英語熱は通貨危機後にさらに強まった

英語熱は1980年代のグローバル化政策から始まった

1997年を境に、韓国人が突然英語を学び始めたわけではありません。韓国の英語教育政策を1981年から2018年まで分析した研究では、いわゆるEnglish fever(英語熱)は1980年代の政府のグローバル化政策とともに始まり、1997年のアジア通貨危機後にさらに強まったと説明されています。

つまり、通貨危機は唯一の原因ではなく、すでに存在した英語熱を強めた出来事の一つと考える方が適切です。早期英語教育や私教育の広がりなど、複数の要因が長い時間をかけて重なっています。

1997年の通貨危機後に競争力が強く意識された

1997年から1998年のアジア通貨危機は、韓国の経済と雇用に大きな変化をもたらしました。企業再編や雇用不安が進む中で、個人にも就職やキャリアのための「競争力」が強く求められるようになります。

Cambridge University Pressの研究は、この危機が韓国の社会経済的な変化を促す契機となり、競争力が個人と国家の中心的な価値へ高められたと分析しています。試験、評価、ランキングが競争を構成し、その多くで英語が重視されました。

この関係は慎重に書く必要があります。「通貨危機によって韓国人の英語力が上がった」のではなく、通貨危機後に雇用競争とグローバル化への意識が強まり、英語資格をキャリア形成の指標として使う社会的背景が強まった、と考えられます。

2000年代に韓国でTOEIC受験者が急増した

1998年の約52万人から2008年の200万人へ

社会的な英語熱だけでなく、TOEICそのものの普及を数字で確認すると、変化はさらに明確です。YBMの資料によると、韓国のTOEIC受験者は1998年の約52万人から、2002年に約113万人、2006年に約192万人へ増加しました。2008年には定期試験と団体特別試験を合わせて2,004,608人となり、年間200万人を超えています。

図3  韓国の年間TOEIC受験者数の増加

定期試験と団体特別試験の合計。出典:YBM、2009年公表資料

国家試験や資格試験でも使われるようになった

受験者が増えた理由を、通貨危機後の英語熱だけで説明することはできません。YBMは、2000年ごろから各種国家試験や資格試験の英語試験の代替としてTOEICが使われるようになり、受験者数が急増したと説明しています。

企業だけでなく、公的な試験や資格制度でもスコアを使う場面が広がれば、TOEICは一部の英語学習者が受ける試験ではなくなります。韓国では2000年代に、英語力を数値で示す手段としてTOEICが社会に広く組み込まれていきました。

平均点も2000年の558点から2008年の610点へ

受験者数が急増する一方で、韓国の平均スコアは2000年の558点から2008年の610点へ上昇しました。2008年の定期試験受験者を目的別に見ると、「就職」が45%で最多でした。受験人口の拡大とともに、就職準備としてTOEICを学ぶことが定着していった様子がうかがえます。

現在の韓国でもTOEICは就職と強く結びついている

2025年の受験目的1位は就職

韓国国内で実施された2025年のTOEIC定期試験の平均は686点でした。これは冒頭のETS世界データの682点とは集計対象が異なるため、日本の564点と直接比較する数字ではありません。韓国国内の受験者像を知る資料として見る必要があります。

受験目的では就職が41.9%で最多でした。次いで卒業・認証が26.4%、今後の学習方針の設定が22.4%、昇進が6.5%、研修成果の測定が2.8%です。現在も韓国では、TOEICが就職準備と強く結びついています。

韓国の受験目的割合
就職41.9%
卒業・認証26.4%
今後の学習方針の設定22.4%
昇進6.5%
研修成果の測定2.8%

韓国の就職では何点くらい求められるのか

最も多い基準は700点以上

韓国TOEIC委員会が2025年下半期の主要企業の採用公示584件を調べたところ、501件がTOEICを採用情報に含んでいました。501件のうち、39%は一定の基準点を明示し、53%は参考・優遇、8%は点数指定なしの提出必須という扱いでした。

基準点を明示した195件の内訳は、500点以上が7件、600点以上が36件、700点以上が103件、800点以上が44件、900点以上が5件です。5区分の合計は195件となり、700点以上が最も多くなっています。

「韓国では就職に900点が必須」といった単純なイメージは正確ではありません。700点台が中心で、職種や企業によって800点以上が求められるケースもある、というのが実態に近いでしょう。

図4  2025年下半期の韓国企業求人におけるTOEIC基準点

基準点を明示した195件の内訳。出典:韓国TOEIC委員会

実際の企業や機関では600点から800点台

同調査に掲載された採用例では、勤労福祉公団が700点以上、韓国奨学財団とGS Globalが800点以上を基準としていました。LS Mtronは人文系700点以上、理工系600点以上です。

この数字を見ると、韓国で700点や800点がよく話題になるのは、TOEICスクールの宣伝だけが理由ではないことがわかります。実際の採用条件に、その点数帯が表れているからです。ただし、すべての企業が基準点を設けているわけではなく、提出者の優遇や参考資料として使う求人も多くあります。

TOEICは大学生活の中でも使われている

入学から卒業まで幅広い用途がある

韓国TOEIC公式サイトは、大学におけるTOEICの利用を、授業免除や単位認定、奨学金、編入学、海外研修・交換留学の選抜、卒業認証などに分けて掲載しています。

つまり、韓国では就職活動を始めてから初めてTOEICを意識するとは限りません。大学生活の中でスコアを提出する機会があり、その後の就職準備にもつながる構造があります。

700点から800点を卒業基準とする例もある

2025年度の公式掲載データでは、亜洲大学(Ajou University)の多くの学部が外国語卒業認証として730点以上を設定しています。嘉泉大学(Gachon University)は、2025年度以降の入学者について、学部により700~760点程度、経営学部と英米語文系では800点を基準とする例を掲載しています。

大学と制度の例TOEIC基準の例
亜洲大学の複数学部730点以上
嘉泉大学の一般学部700~760点程度
嘉泉大学の経営学部・英米語文系800点以上

これは「韓国の大学生は730点がなければ卒業できない」という意味ではありません。基準は大学、学部、入学年度によって異なり、TOEIC以外の試験や授業履修で要件を満たせる場合もあります。それでも、大学在学中から700点以上を具体的な目標にする学生が生まれやすい環境だとはいえます。

日本と韓国ではTOEICを受ける目的に違いがある

日本では英語学習のためが最多

2025年のETS世界調査では、TOEIC L&Rの受験目的は、世界全体で就職活動が28%、卒業に必要が26%、英語学習が24%でした。日本では「英語学習のため」が29%で最も多くなっています。

一方、韓国国内の2025年定期試験では、就職が41.9%で最多でした。両者は同じ調査ではないため、29%と41.9%を直接比較することはできません。ただ、日本では学習の到達度確認、韓国では就職という目的がそれぞれ上位に出ている点は、TOEICの社会的位置づけを考える材料になります。

必要なスコアが明確なら、「取れたらよい」ではなく「期限までに取る」という学習になりやすくなります。こうした受験目的の違いも、平均点に影響している可能性があります。

なぜ現在の日韓に100点以上の差があるのか

ここまでの資料から、現在の日韓差につながった可能性がある要因は、次の4点に整理できます。どれか一つだけで118点差を説明するのではなく、複数の要因が重なった結果と見るのが妥当です。

要因韓国で確認できる特徴
就職受験目的で就職が最多。採用基準には700~800点台が多い。
大学と制度卒業認証、単位、奨学金、編入、海外研修などに利用される。
社会背景1980年代からの英語熱が、1997年の通貨危機後にさらに強まった。
学習環境TOEIC専門の講座や学習市場が発達し、集中的に対策しやすい。

4点目の学習環境については、次回以降で詳しく検証します。第2回では、韓国の学習者がどのように学習量を確保し、反復練習や時間管理を行っているのかを日本の学習法と比較します。教材そのものの違いは第3回で取り上げます。

韓国の平均点が高いことと英語教育全体の評価は別

平均点は受験者集団にも左右される

韓国682点、日本564点という数字は、あくまでTOEIC受験者の平均です。韓国人全体の英語力が、日本人全体より118点分高いという意味ではありません。受験者の目的や目標点、試験を受ける層が違えば、国別平均も変わります。

また、過去のスコア推移には受験者層の変化も含まれます。この記事で確認できたのは、韓国でTOEICの利用場面が増え、就職や大学のために具体的なスコアを目指す受験者が多いということです。

高いTOEICスコアと実用英語力は同じではない

TOEIC L&Rは、英語を聞く力と読む力を一定の条件で測る試験です。高いスコアはその2技能の習熟度を示しますが、会話力や文章作成力をすべて保証するものではありません。韓国でも、試験対策への偏りや高得点競争の負担は議論されてきました。

韓国の平均点から学ぶべきなのは、「韓国の英語教育は日本よりすべて優れている」ということではありません。TOEICという試験に関して、日本以上に高得点を必要とする社会的環境と、それを支える制度や学習市場が形成されてきた点です。

まとめ

1990年に日韓の平均点がほぼ同じだったことからも、現在の差を生まれつきの英語力や教育の優劣だけで説明することはできません。韓国では、就職、大学、国家試験や資格試験などでTOEICを使う場面が広がり、具体的な目標点を持って受験する人が増えました。通貨危機後に雇用競争と競争力への意識が強まったことも、その背景の一つと考えられます。

2025年下半期の採用公示では700点以上を基準とする求人が最も多く、大学でも卒業認証などに700~800点台を用いる例があります。こうした環境が日韓の平均点差につながっている可能性はありますが、平均点はあくまで受験者集団の数字であり、国民全体の英語力を直接比較するものではありません。

では、高い目標点を求められる韓国の学習者は、実際にどのような勉強をしているのでしょうか。第2回では、学習量の確保、反復練習、時間管理などに注目し、韓国と日本のTOEIC勉強法を比較します。

シリーズ記事

第1回 韓国のTOEIC平均点はなぜ日本より高い 就職と社会背景から考える

第2回 韓国と日本のTOEIC勉強法は何が違う 短期集中と学習設計から比較する

第3回 韓国のTOEIC問題集は何が違う 1000問模試と900点から990点までの勉強法

参考資料

1. IIBC「2025年TOEIC Tests 世界の国・地域別平均スコア発表」 https://www.iibc-global.org/iibc/press/2026/p306.html

2. IIBC「2024年TOEIC Tests 世界の国・地域別平均スコア発表」 https://www.iibc-global.org/iibc/press/2025/p283.html

3. 新東亜「韓日 영어실력 비교」韓国TOEIC委員会の1990~2011年分析を掲載 https://shindonga.donga.com/Print?cid=111935

4. Choi Tae Hee, English fever: Educational policies in globalised Korea, 1981–2018 https://doi.org/10.1080/0046760X.2020.1858192

5. Ingrid Piller and Jinhyun Cho, Neoliberalism as language policy https://doi.org/10.1017/S0047404512000887

6. YBM「TOEIC, 한 해 응시인원 200만 돌파」 https://www.ybmnet.co.kr/ybm_company/news_read.asp?seq=614

7. 韓国TOEIC委員会「2025年TOEIC定期試験成績分析」 https://www.toeicstory.co.kr/2556

8. 韓国TOEIC委員会「2025年下半期主要企業採用公告のTOEIC活用状況」 https://www.toeicstory.co.kr/2551

9. 韓国TOEIC公式サイト「大学 大学院での活用状況」 https://exam.toeic.co.kr/common/template/viewContents.php?contentsCode=25

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